【金沢美術工芸大学×穏田神社】良縁守「くくる」制作インタビュー
金沢美術工芸大学と共同で石川県の伝統工芸技術を用いた”良縁守「くくる」”を奉製しました。令和7年1月1日(水)より穏田神社にて頒布を開始いたします。九谷焼と真田紐を組み合わせたこちらのお守りは、売上の一部を能登半島地震の復興義援金として寄付いたします。
12月は当社のHPやSNSで良縁守「くくる」制作の裏側を随時公開し、このプロジェクトに携わってくださった方たちの思いを届けていきます。
今回はこのお守り制作に携わってくださった金沢美術工芸大学工芸科の陶磁専攻4年生の佐藤りりかさんと染織専攻2年生の長縄花怜さん、そして指導していただいた工芸科の大高亨先生にお話を伺いました。
このプロジェクトは1月1日に発生した能登半島地震を受け、石川県と縁のある穏田神社が石川県の伝統工芸技術を使って伝統を未来につなぎたいという思いでスタートしました。春頃に金沢クラフトビジネス機構に相談し、金沢美術工芸大学の工芸科の先生方と繋げていただいたことがきっかけで本プロジェクトが本格始動。1次選考、当社での現地調査、最終選考を経て陶磁専攻4年生の佐藤りりかさんと染織専攻2年生の長縄花怜さんにデザイン制作を依頼させていただくことになりました。
それから何度も話し合いを重ね、実際に制作の工房にもお伺いし(その様子は後日アップします!)、良縁守「くくる」が完成しました。
どのような思いで取り組んでくださったのでしょうか?ぜひ最後まで読んでいただけたら幸いです。
▼良縁守「くくる」の詳しい詳細はこちらも併せてご覧ください。
https://onden.jp/news/20241129/
制作した佐藤りりかさん・長縄花怜さんのインタビュー
今回のお守り制作プロジェクトに応募しようと思ったきっかけを教えてください。
佐藤さん:今まで大学以外の方と制作をしたことがなかったので、今回の企画に興味を持ちました。また、大学での説明会の際に、宮司の船田さんは原宿の地域への包括的な思いが強く、それに対して行動ができる人だという印象を受けました。
長縄さん:東京の神社の人が大学に来ること自体驚きました。私はもともと寺社仏閣が好きなんです。そしてこの企画の能登半島地震の支援について共感し、何か自分でもできることがあればと思い、選考に応募しました。また、初めて宮司さんが学校に説明にこられた時に、この時代において神社を守ろう・繋げていこうとする熱いエネルギーと強い思いを感じました。最初にお会いしてから一貫して「守ること、守るためには変わることも必要」とおっしゃっていて、金沢で工芸を学ぶ私にとって、自分も同じようなことを思っていました。だから船田さんの思いと自分の思いが重なるところがあり、選考に参加を決めました。
実際にこの企画の選考を始めることになってから、穏田神社や神社というものへの印象は変わりましたか?
佐藤さん:もともと神社は好きでしたが、慣習や観光として訪れる場所、そして人生儀礼を受ける特別な場所というのが神社に対して持っていたイメージでした。神社に携わる方と話していくなかで、神社はもっと身近なもので地域社会のコミュニティとしての役割も担っていることを知りました。
長縄さん:東京の神社というものに対してイメージが湧かなかったというのが最初の印象でした。しかし、この企画が進んでいくにつれて、神社は伝統を守り続けるだけではなく、これから時代とともに変わっていこうとしているんだなという印象を受けました。
最終選考前に行った当社での現地調査について、実際に穏田神社にお越しいただいた感想を教えてください。
佐藤さん:穏田神社は今までにも様々な取り組みをされていますが、いずれも根底に 「人と人とのつながりを大切にする」という想いがあると感じていました。実際に赴いたことで、その印象がより強いものになりました。また穏田神社には豊かな緑があり、 とても居心地の良かったです。渋谷駅から歩いてきたのですが、駅周辺の賑やかな場所か ら緑に囲まれた境内に入ったときに「もっとここに居たい」と感じたことを覚えています。
長縄さん:「こんなところに神社があったんだ!」というのが第一印象です。原宿は文化や流行の中心地だけれど、穏田神社に来ると境内からはマンションや民家がよく見えます。大きくない神社だからこそ、地域の人々にとってより身近な場所であると思うし、守 ることの難しさや地域性みたいなものを自分なりに感じました。
最終選考で提案してもらった最終案はお二人でどのような話し合いをしてプレゼンに臨まれましたか?(デザインのポイントやこだわったポイントなど)
二人:1次選考では別々に制作したため、まず二人それぞれが持っている印象を探り、着地点をみつけていきました。自分たちがやりたいことをアイデアに落とし込むのが難しかったですね。
佐藤さん:まずは神社やお守りに関することをいろいろと調べてから、デザインの大枠 を考えていきました。しかし全体としては、プレゼンでコンセプトとして掲げた「想い を繋ぐ、願いを結ぶ」というフレーズにすべてが込められていると思います。穏田神社への印象やイメージをたびたび2人で共有していたので、調査日のあとは方向性が決まり、話が一気に進んだのを覚えています。
長縄さん:私は2年生ということもあり経験が少なく、プレゼンの組み立てやアイデア出し の方法など、佐藤さんに色々と助けてもらいながら進めていきました。話しを合わせつつ、細かい作業やデザインはお互いに任せることにしたんです。コンセプトはずらさない ようにして進めようということだけは変わらなかったので、その方が制作しやすく、お互 いの思いをデザインに反映させることができたように思います。
最終選考までにお二人を指導された先生方にはどのようなアドバイスを受けましたか?
佐藤さん:普段は個人で制作することが多いので、今回のような選考は初めての経験でし た。特に予算が決まっていたので、先生方には工房などとの交渉や一連の流れがどういっ たものかを教えていただきました。そういった実務的なことはネットで検索しても出てく るもではないので、制作を進める中で大きな助けとなりました。
長縄さん:予算の中でどこまでやりたいことと制作を進められるのか、どこに何を依頼をするのか、ということを先生たちにアドバイスをいただきました。私たちの1次選考のデザインは方向性が異なっていたので、どちらかだけの意見にならないように自分たちの納得いくかたちを見つけられるように先生たちもアドバイスしてくれました。もっと自分の意見を出してもいいというアドバイスを先生たちからいただいたので、お互いの意見を反映させて二人で納得するように進められた気がします。
最終選考でお二人が決まった時はどのようなお気持ちでしたか?
佐藤さん:たとえ選ばれなかったとしても後悔はないようにという気持ちで準備してき たので、安心しましたし、身の引き締まる思いでした。オンラインとはいえ、このよう な選考・発表方法は初めての経験でしたので、緊張感もひとしおでした。
制作していく段階で一番こだわったことはなんですか?
佐藤さん:梅の花のふくらみなどは、実際に釉薬や上絵具を施したときのことを想像しな がら原型を制作しました。ちょっとしたズレが目立ちやすいデザインなので、細部に気を 配りながら成形しています。窯から出すまで上絵付けがどう焼きあがるか不安でしたが、 表面の質感や溜まり方など、綺麗に仕上がったのではないかと思っています。
長縄さん:お守り本来の形を思い出してもらうことを意識しました。普段から身につけること、ずっとなくならない変わらない想いを身につけるということで「紐」にこだわりました。紐の色合いは自然豊かな神社の歴史と今の穏田神社の印象で緑と水色が連想され、この2色を使うことにこだわりました。
一番大変だったことはなんですか?
佐藤さん:展示などの制作を被ってしまったので、学業と並行して作業するのが難しかったです。また、予算などを考えると、型を作るのに細かい制約がありました。そこを考慮しながら原型を作ることは今まで経験がなかったので大変でした。しかしその制約があったからこそ逆に取捨選択ができた気がしています。
長縄さん:与えられたものに対して意見や方向性といったある程度の制約があることで、逆に決めやすかったと思います。素材の値段のことは初めて知ることが多かったので、制作の中でやるべきこととできることを擦り合わせていくのが大変でした。
今回の制作で一番楽しかったことはなんですか?
佐藤さん:最終選考のプレゼンの準備が一番楽しかったです。準備をしているときに、どういうエピソードやデザインを入れたら伝わるのか、言葉選びなども含めて考え込むことが一番楽しかったなと思います。資料集めをしてさまざまな文献に触れるなかで、神社の文化や歴史について初めてみること知ることが多く、それらを自分の中でしっかり取り入れることができました。
長縄さん:最終選考のプレゼンでは、しっかりとした準備をすることで納得できるかたち を作れることを実感し、自信になりました。また実際に自分たちのデザインが工房で制作され、次第に形になっていく様子を見学させてもらい、完成されていく過程を見ることができたことも嬉しい経験でした。
このお守りにこめた思いを改めて教えてください。
佐藤さん:「想いを繋ぐ、願いを結ぶ」こと。人と神さまだけではなく、穏田神社だか らこそ人と人をも繋げていってほしいと思います。このお守りを手に取る人にもその想い が伝われば嬉しいです。また能登半島地震のことだけでなく、能登ひいては石川の美しい 風景や文化を知って、いずれ訪れるきっかけとなることを願っています。
長縄さん:情報が先に入ってくる時代の中で、自分のことや自分の将来のこと、もっと身 近なことに対して、思いや願いを込める。そんな時間を持つことの大切さを伝えたい、と いう自分の中で考えていることと重なりました。このお守りをきっかけに能登半島地震の ことや能登・石川のことを知ってもらうと共に、自分自身のこと、大切にしたい思いを考 える時間というものをこのお守りを手に取ることで持ってほしいと思います。自分の身近 な人のことを思い出す時間にこのお守りが寄り添えられれば嬉しいです。
このお守り制作での経験をきっかけに今後どのような活動をしていきたいですか?
佐藤さん:陶磁は自分との時間の方が長く、普段は個人で黙々と作業する時間が多い環境 にいたので、こうして人と仕事をするのは楽しいなと思いました。この経験をいかして関 わる人が多い現場でも仕事をしていけたらと思っています。
長縄さん:今回のお守り制作で社会との関わり方を知ることができました。またお守りなど生活必需品ではないもの、目に見えないものを形にすることが面白いなと感じました。 思いを形にする楽しさを知ったので、今後は自分の伝えたい気持ちを形にしていきたいな と思っています。
指導した工芸科・大高亨先生へのインタビュー
企画が決まり学生の選考が進んでいく中で、当社や神社への印象などはどのように変わりましたか?
大高先生:原宿といえば自分が学生の頃にもよく遊びに行っていた場所ですし、人が集まる場所という印象があります。そこにオアシスのような穏田神社の存在を初めて知りましたし、船田さんが若くして宮司になり、さまざまな活動をしている姿に感銘を受けました。
1次選考から当社での現地調査、最終選考の発表まで、学生にどのようなアドバイスをすることを意識されましたか?
大高先生:クライアントの要望に対して満足させられるかということが第一に考えることだと思っています。学生の思いを制約のあるなかで汲み取って実現させたいと思いアドバイスをしていきました。最終選考での佐藤さんと長縄さんのプレゼンを聞いた時に、この二人の思いを形にするお手伝いをしたいと思いました。予算のことも考慮して制作を考えないといけなかったので、実現可能なシミレーションをしていきました。
最終選考後に、佐藤さん、長縄さんを指導したことで特に印象に残っていることはありますか?先生から見て二人の制作への姿勢はどのように思われますか?
大高先生:ものづくりに対する真摯さを持っている2人だったので信頼して、アドバイスをすれば2人はそれに対してしっかりと答えたと思っています。
今回のお守り制作を通して、大学での学びや社会共創事業などへの考えは変わりましたか?
大高先生:時代が求めているものが変わってきているので美術大学へ求めるものも変わってきていると思います。今の時代は、さまざまな専門領域の関係性を学び、変化していく社会や多様性を重視する今の風潮に向けて多様な提案ができるホリスティックデザインが求められていますよね。(金沢美術工芸大学デザイン科にはホリスティックデザイン専攻があります)
よりモノからコトへと時代の注目が移っていく中で、工芸は素材と対話をしながら自分たちの手を実際に使って形を作っていきます。そういった教育を受けている人にしか作るコトのできないモノ、他と差別化できるモノが作れることは強みだと思います。
人と人で仕事をすると予定していなかったことが起こってきます。大高先生はどのように対応されていますか?
大高先生:そういう状況も楽しむことだと思います。人と人とのコミュニケーションができること、お互いの思いをぶつけ合いながら第三者目線でモノを作り確認していくことが大事。そうすればいいものが生まれると思います。コミュニケーションに対して、時間や労力、手間がかかるからと面倒くさがらないことが大切ですよね。オンラインだけで話し合いを進めるのではなく、やっぱりフィジカルな人との付き合いが大事。だから自分はできる限り実際に現場に足を運んで直接コミュニケーションを取るようにしています。オンラインという選択肢があるからこそ、オフラインでのリアルな対面を意識して取り組んでいくことが大切なんじゃないかなと思います。
今回のお守り制作を通して石川県の伝統工芸がどのようになることを期待していますか?次世代を担う学生にどのようなことを期待していますか?
大高先生:外部とのコミュニケーションができる作り手になることが大切だと思います。クライアントやその先にいる人たちを想像することが大事です。
そのためには人とのコミュニケーションは必要不可欠。AIなどの仮想世界ではなく、実際に触れた感触や匂いなどを五感で感じ、実際にその現場に行き触れた人じゃないと作れないものがあります。そういう現場でのコミュニケーションが、これからの時代はより大事になっていくような気がします。見えないものを形にする。それを形にすることで人の想いが伝わる。このお守りのプロジェクトは自分にとっても様々なことを考えるきっかけになったかなと思います。